「秋元」

秋元を抱いて、疑問に思ったことを、俺は口にしてみた。
「お前、葛西の表情をコピーしているのか?」
「いや」
秋元は答えて、
「俺が葛西に見えた?それは君の願望だろう」
と言った。

「それはそうだが・・・」
腑に落ちない。
「本当のことを知りたい?答えは匂いだよ。葛西のオーデコロンをつけている」
「匂い?」
「人は匂いで記憶を呼び覚ますんだ。催眠術でも良く使う方法だけど、効果あったみたいだね・・・」
「お前、俺に催眠術をかけているのか?」
俺の問いに、秋元は謎めいた微笑を浮かべた。
ちょっと、妖艶な感じさえする。

「人は寝ているときでも嗅覚だけは起きてるんだ。匂いには反応するんだよ。それが君の中の葛西の記憶と結びついたんだろう」

「なんでそんなマネをするんだ」
「なんでって・・・良かっただろう?こないだより」
「それはそうだが・・・」
秋元に操られているようで不快だ。
だが、確かに抱いた感じは、最初よりもずっと良かった。
秋元は相変わらず汗ひとつかかなかったけれど。
頬はわずかに上気していた。

「これからドンドン良くなるよ。回数を重ねるごとに」
秋元は言った。
「あんまり誘惑するなよ。戻れなくなるぞ」

「戻るつもりはないよ」
秋元は、少し疲れた顔をした。

「君と寝たこと、中瀬が怒ってる・・・」






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