「馬鹿言うな」
俺はギロリと睨んだ。
秋元は平気な顔で、
「本当言うと、こないだは体調も良くなかったんだ。ちょっと緊張もしていたしね。君はどう」
「・・・そんな言い訳・・・」
「俺が欲しくない?」
秋元は、俺の手に自分の手を重ねた。
上目遣いに見上げるその眼差しは、いたって真面目だ。
いつものからかうような調子はなりをひそめている。

葛西を抱いてから、毎晩、葛西の不在に苦しんでいる。
よく眠れなかった。
秋元を抱いた夜は、少なくともよく眠れたようだ。
単純に、欲求不満なのだろう。

「俺は、葛西が好きだ」
「知ってるよ」
「そんなんで、お前はいいのか?」
「心配してくれるの?へーえ」
意外そうに、秋元は皮肉をいい、
「人間ってさ、離れるとだめになるよね」
嫌なことを言う。

「葛西の性格から考えて、君に操を立てたりはきっとしてないよ。あいつは押しに弱いし、恋情の怖さもまだ知らないしね。きっと今頃誰かに抱かれて」
「貴様」
俺が思わず秋元の手を払いのけて、胸倉を掴むと、
「葛西のことを心配しても始まらないよ。葛西なんて、顔が綺麗なだけのお人形みたいなもんだし・・・」
「俺を怒らせたいのか?」
「そうだよ。怒れば人間、本音が出る。君の怒った顔、なかなかセクシーだしね」
俺が手を離すと、秋元は少しだけ咳き込んで、
「ベッドでもそのくらい乱暴にしてくれれば、俺は喜ぶよ」
と言った。
「なんだと?」

「ひとりで寝られないんだろう?薄い壁を伝って、君が寝返りを打つ音が一晩中聞こえてくる・・・俺だって、なにも感じてないわけじゃないんだ・・・」

秋元の目は、澄んでいた。








inserted by FC2 system