その夜、田崎は三好の部屋の前で立ち止まった。
このところの三好は、誰の目にもわかるほど不安定だった。
結城さんから新しい任務を受けたようだが、あんな状態で遂行できるのか・・・。

皆口には出さないが、そう感じていた。
今夜も食事も碌に取らないで、早々に部屋に引き上げていった。
誰も声をかけられない。何も言わず俯いたままだった。
あの夜、佐久間と何を話したんだ?

自分が、外側にいる。
田崎は傷つけられた自尊心と、佐久間への嫉妬、そして三好に何もできない歯がゆさに、珍しく行動を起こすことにした。三好の部屋に向かう。

とにかく、彼と二人で話をしなくては・・・。

三好は頭がいい。下手に誘導しても乗ってこない。ありきたりだが、正面から行くしかないだろう、そう思ってのことだった。
三好は、もう寝ているのかもしれないな・・・。


ドアの前で悩む田崎の耳に、微かに声が聞こえてきた。
誰かいる・・・。
三好ではない誰か・・・まさか!

田崎は気配を殺して、部屋から離れると、ひとつ上の階の、廊下を曲がった先の部屋へ急いだ。三好の部屋が伺えるただひとつの窓だ。

慎重に身をかがめて窓に近づき、三好の部屋を確認した。
そこには、白いベッドに横たわる三好がいた。
月明かりに照らされて、彼の白い肌が、遠目にもよく見えた。

そして、その顔を隠すようにそっと撫でる手。
白い皮手袋の、その手の持ち主を、田崎はこの部屋に入る前からわかっていた。


結城さん・・・!

田崎は息を殺して。窓を見続けた。
それを知って知らずか、結城は月明かりの中で、三好の体を起こすと、ゆっくりとシャツのボタンを外していった。三好は何故か目を覚まさなかった。
結城にされるまま、体をすっかり預けて、ぐったりとしている。

睡眠薬か?
それ自体は驚かなかった。
田崎が驚いたのは、見ているだけで赤面してしまいそうな、結城のあまりに優しい動きだった。
ありえない・・・こんなこと!

結城は三好の体に纏わりつく衣服を、全て取り除くと、ユックリと抱きしめた。
それからその唇で指で、白い肌をただただ愛撫していった。

耳も、首も、指先も、彼の身体の全てが愛おしい・・・そんな愛撫・・・。

深い眠りの中にいる三好は、何も反応しなかった。
それでも、結城の行為は終わらなかった。


田崎は途中でとても見ていられなくなって、思わず目を閉じた。
それでも、田崎の瞼の裏で、結城が三好を愛撫し続けていた。

何時間たったのだろう?
気づくと空が白んでいた。
田崎ははっとして、三好の部屋を見ると、先ほどの白いベッドに、横渡る三好の姿があった。

シャツのボタンは外れてはいなかった。髪も、ベッドも、何一つ乱れていない。

夢?いやそんなはずは無い・・・。

田崎は両手で顔を覆った。
これほどまでに自分の無力さを感じたことはない。
そのことが、昨夜の出来事を、現実のものとして田崎に突きつけた。

とても夢では説明できない敗北感に、田崎はむしろ可笑しさを覚えて、思わず喉の奥で笑った。

そして、笑いながら泣いた。





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