「失礼だけど、今夜は雨になるから、そのテントじゃ夜は越せないんじゃないかな」

後ろから声がした。
振り向くと、ひとりの中年の男が立っている。
さっきからキャンプ場の隅で焚き火をしていた男のひとりだ。二人できているらしい。

「あの・・・」
「余計なことだと思うけど、雨漏りがすると思うよ。良かったらうちのテントに来ないか?」
自然な感じだった。
言い方によっては随分馴れ馴れしい感じもするだろうに、いやらしさはまるでなかった。本当に親切で言ってくれているらしかった。

「小田切」
後ろから声がした。小田切・・・?ママと同じ名前だ・・・。
「福本。いいだろう?この子たちも俺たちのテントで一緒に・・・」
「お前はいいだろうが、そっちの子は不満そうだぞ」
福本、と呼ばれた男は、渋い顔をした。
ふたりとも背が高く、整った端正な顔立ちで、どことなく似ていた。
僕は、なぜか急にパパを思い出した。
似ている。
ママも・・・。

「もしかして、母の知り合いですか?」
僕が思い切って言うと、小田切さんは苦笑いをして、
「勘がいい子だな、福本」
と言った。

「お前のママの知り合いだって?」
真島が言った。
「ばれてしまったから言うが、正確には波多野、君の父親の同僚だ」
小田切さんはそう答えた。
じゃあ、D課の刑事か。どうりで身のこなしが・・・。
「じゃあ、父に頼まれて・・・?」
僕が呆然としていると、小田切さんは頭をかいて、
「波多野には借りがあって、どうしても断れなかったんだ。楽しみを邪魔して、悪く思わないでくれ。嫌じゃなければ、一緒に飲もう」
と言った。
「別に嫌とかじゃないですけど・・・」
ただ酒が飲めると思ったからか、真島は目を輝かせた。
「旅は道連れ、というだろ?いいワインがあるんだ」
小田切さんは言った。
だが、後ろにいる福本さんのほうは、表情は見えないが、わずかに吐息した。
まるで、余計な邪魔が入った、とでもいう感じだった。

焚き火の炎は薪をくべると、一気にめらめらと燃え上がった。
ワインを飲みながら、僕らはその炎を一心に見つめていた。
小田切さんは、今手がけている迷宮入りの事件の詳細を語ってくれた。
僕らはその話に引き込まれて、暗く輝く小田切さんの瞳に引き付けられて行った。
その理知的な瞳に、いつの間にかママの面差しが重なった。











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