「あいつはやめとけよ」

キャンプ場について、司と二人で水を汲みに谷に降りたとき、司が突然言った。
「え?なに」
ふりむくと、驚くほど側に司がいた。
僕の腕をがしっと掴んで、
「お前、あいつと付き合ってるんだろ?さっきは誤魔化したけど、反応でわかった」
「司・・・」

「あんな荒んだ眼をした大学生みたことないぜ。まるで狼だ。それに、さっき車で着替えた時、ちらっと腕に刺青してるのが見えた。一体何者なんだよ?」
「真島は・・・」
話すべきだろうか。
真島はヤクザの息子だって。
「あいつ、クスリでもやってるんじゃないのか?」
「真島はそんなんじゃないよ。ああ見えて真面目なんだ」
「お前が心配なんだ。騙されてるんじゃないかって。お前は箱入りだからな」
「司・・・」
僕は話すことにした。

真島の親がヤクザだったこと。真島が赤ん坊の頃に殺されたこと。
真島はギャンブルで生計を立てて、大学にも通っていること。
司の顔は険しくなった。
「普通じゃないとは思っていたけど、そこまで異次元だとは思わなかったよ。確かに親切だし、顔も悪くないけど・・・背も高いけど!お前の相手としたら最悪だよ。よくママが許したな」
「ママには司も一緒だって言ったから・・・」
「どおりで変なメールが来てたと思ったよ。みのるのことよろしくお願いしますってさ。お前のママ、なんでおれのメアド知ってるんだよ・・・」
「ママ、僕のスマホをいじるから」
「本当怖いよな、お前のママ。それはいいんだ。みのる」

司は腕を引っ張ると、僕を腕の中に抱きこんだ。
「あいつはやめて、俺にしろよ」
え?
水筒が地面に転がった。
「俺・・・俺・・・今まで言わなかったけど・・・幼稚園の頃からお前のこと・・・ずっと見てた」
「司」
「大学行かなかったのも、お前のこと諦めようって思ったからだよ・・・違う世界で、お前を忘れて生きようと思ったんだ・・・できなかったけど・・・」
司の唇が僕の唇に触れようとしたその時、
「なにをしてるんだ!」
上のほうから、真島の声が響いた。
















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