再び目を開けると、田崎の姿はなかった。
「・・・?」

心を解き放ったせいで、頭の芯がぼんやりしている。
真木は裸だった。前にもこんなことがあった・・・。
そう思っていると、

「気がついたようだな」
冷え冷えとした、地獄の底から響くような声がした。
見ると、暗闇の中に、影のようなシルエットがある。
真木は心臓を射抜かれるような気がした。
結城中佐、だ。

「・・・いつからそこに、いたんですか」
「いつから?」
男は投げやりな調子で、
「最初からだ」

最初から・・・?では、全部見られていたのか・・・?
真木の白い顔は、熱く燃え上がった。
では・・・では・・・あれは、罠だったのか・・・!

「貴方のせいだ・・・貴方のせいで・・・こんな恥ずかしい姿を・・・!」
床に落ちた毛布で、真木は自分の身体を隠した。
混乱している。

田崎と結城がいつの間に入れ替わったのか・・・?
真木は記憶を辿ってみた。
真木の身体に侵入してきた指は、右の指だった。
田崎は左利きだ・・・。
真木は結城の右手を見つめた。
右手にはいつものように染みひとつない白手袋がきちんと嵌められていた。

「なんだ?」
「・・・貴方・・・貴方だったんですか・・・?僕を抱いたのは」
結城はそれには答えず、

「服を着ろ。食事に行こう」
光のない暗い目で、真木を見つめた。

貴様は俺のものだ、俺だけのものだ・・・忘れるな・・・

あのときの結城の囁きが、いつまでも耳に残った。




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