「目を閉じて、真木」

田崎は言った。穏やかな暗示をかけるような耳障りのよい声だ。
「俺のことを、彼だと思うんだ」
「何のマネだ」
「いいから。言うとおりにして」
珍しく強い口調で、田崎は言った。

真木は目を閉じた。すると、頬に手の甲が当たった。すっと頬を撫ぜる仕草。
結城がよくする仕草だ。
「あ・・・」
思わず吐息が漏れた。
「真木」
声がする。最初は遠く、だんだんと近づいてくる、あの声。
「結城さん・・・なのか」
唇が塞がれた。冷たい唇。だが、熱い舌が入り込んでくる。

キスを交わすうちに、下半身が熱を帯びてきた。
それを察したかのように、男は足の間に身体を割り込ませてくる。
ソファに押し倒された。
「・・・目を開けるな・・・魔法が解ける・・・」
耳元に囁く声。彼の声だ。

愛撫は執拗だった。
舌が、すばしこい生き物のように、真木の身体を這う。
「・・・あっ・・・はぁ・・・」
真木は呻いた。するとその声を塞ぐように、唇がまた塞がれた。

「焦らさないで・・・」
真木は懇願した。
「もう・・・逝かせて・・・」
「まだだ」
声は言った。

「俺を感じてみろ・・・俺の、すべてを感じろ・・・」
男は真木の整った指と指の間を舐めている。
そうされるたびに、全身に電流が駆け抜けるような気がした。

結城さん・・・!
声にならない叫び声をあげて、真木は果てた。


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