「まっ、待って!待って!」

田崎が苦しげに叫ぶと、乱暴に身体を押さえつけていた手が緩んだ。
甘利は、顔を背けて口元を腕で隠すような仕草をすると息を吐きながら、
「・・・すまない」
と言った。

カーテンの隙間から差して来る日の光に照らされて、甘利の少し日に焼けた肌が、汗ばんでいるのがわかる。均整の取れた身体は、男の目から見てもゾクッとするほどの存在感がある。スーツを着て、優しい笑みで隠していたが・・・こんな人が、どうしてこんなに取り乱しているんだろう・・・この俺に・・・。

田崎は甘利をじっと見つめて言った。

「・・・甘利、俺のほうが謝らなくては・・・」
それを聞いて、甘利はいまいましそうに田崎を睨みつける。
「何をだ。俺を利用したから?すきでもないくせに挑発したから?まだ、あいつを忘れられないから?」
いつも飄々としている甘利が、身体中で自分にぶつかってきている。

「俺は・・・初めてじゃないですよ。貴方が思っているほど、綺麗な人間じゃない」
甘利は困惑して見えた。
それでも、田崎は続けた。

「貴方を利用したんですよ。貴方なら、俺を適当に捨ててくれると思ったか・・・ら」
そこまで言うと、田崎は口を塞がれた。
甘利の熱い舌が入ってきた。頭の芯が融けるようだ。
痺れるほどの色気をたたえた瞳で睨みつけながら、甘利は言った。

「俺は、初めてなんだ。こんな、気持ちは・・・」
甘利の熱が心地よかった。
だが、甘利が田崎の身体をまた抱こうとすると、田崎は慌てて静止した。

「待って甘利、激しすぎて・・・」

「もう、身体に力が入らないんだ・・・」

甘利はそれを聞いて、意外な顔をした。
「俺もこんな気持ちは初めてで、どう言ったらいいのか・・・」

田崎はいつも冷静だった顔を赤らめた。
二人は顔を見合わせると、唇を重ねた。


長い時間・・・お互いの鼓動を聞いているうちに、ふたりはもう離れられないことを認識した。
田崎は甘利に身体を寄せると、つぶやくように言った。

「俺は自分が思っていた以上に、独占欲が強かったらしい」
「ああ、俺たちは皆そうさ、独占欲も、自尊心も、そうじゃなきゃ・・・」
スパイにはなれない。

「負けず嫌いだしね」
「策略家だしな・・・、お前のお陰で、俺はもう女が口説けそうに無い・・・責任取ってくれよ」

「またそんなことを言って、すぐ<子猫みたいな>娘のところへ行くんでしょう?」
「俺は実のところ、猫好きじゃないんでね、お前は?」
「そういわれてみれば、俺も猫好きな訳じゃないね」

今なら、三好を弟みたいな奴だと言えそうだ、と田崎は思った。

「甘利は猫好きじゃないなら犬が好きなんですか?」
「俺か?」
甘利は、フッと笑うと、田崎の耳元に顔を近づけて囁いた。

「俺は、・・・お前だ」












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