目を覚ましたとき、一瞬自分がどこにいるのかわからなかった。

隣から声が聞こえた。
「覚えていないとか言うのはなしだぜ?・・・後悔してるって顔だな」
甘利だ。
片腕を枕にして、煙草をふかしている。

「貴方こそ・・・後悔してるんじゃないんですか?」
田崎が囁くと、甘利は痛いところを突かれたらしく、一瞬顔を歪めて、
「してねーよ。お前の話だよ」
そう吐き捨てて、また煙草を吸った。
煙草の先がじりじりと赤くなる。
コップを灰皿代わりにしている。

「禁煙じゃないんですか?ここ」

「なんでお前がそんなこと知ってるんだ?来たことあるのか、こんなところ」

「・・・」

随分機嫌が悪い。
夕べの抱き方も乱暴といえば乱暴だったし、さっきからの会話もまるでけんか腰だ。
何が気に入らないのだろう。
田崎がそう思っていると、

「ああくそっ!おい、質問に答えろ、誰と来たんだよ!?」
「誰って・・・」
「小田切か、波多野か、それとも実井かよ」
「ちょっと待ってください。俺は別に」
驚いてる田崎を、甘利は再び押し倒した。

「しょうがねぇ、もういっぺんやるぞ」

「ええ?ちょ、ちょっと待ってください、甘利・・・落ち着いて」
「こんな状態で落ち着けるか、馬鹿。どうせお前は明日になれば何も無かったような顔して俺に挨拶する気だろうが!自分だけスッキリしやがって」
いつもの余裕はどこへいったのか。
甘利のギラついた眼差しに、田崎は気圧される思いだった。

男同士。それも大人同士の気楽な付き合い。
プレイボーイの甘利ならば、あとくされもないだろう。
仮初めの一夜も。
そう思っての、人選だったが。
どうやら本気にさせてしまったらしい。
その証拠に、甘利は他の学生たちへの嫉妬を隠そうともしない。

ミイラ取りがミイラになる。
あれはどういう意味だったのだろうか・・・。
田崎は甘利の意外な一面を目の当たりにしながら、そんなことを考えていた。




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