それは突然来た。
ウオッカを立て続けに呑んでいた田崎は、とうとう正体を失ったのだ。
らしくないことが続いている。
甘利は、懐から煙草を出すと、口に銜えた。
ライターで火をつける。
この雨の中、寮まで田崎を連れて帰るのは面倒だな・・・。
幸い、このバーの二階は簡易宿になっている。
要は連れ込み宿みたいなものだが・・・。
それにしても、意外だった。
あの冷血、じゃない、冷静な田崎が、結城さんと三好の関係を疑るような発言をするなんて。
一体なにがあったんだ?
田崎は言葉を濁してそれを語ろうとはしなかった。
ただ薄く、壮絶に美しい笑みを浮かべただけだ。
壮絶に美しい笑みだと?俺は一体何を考えているんだ・・・。
甘利は頭をかいて、煙草の煙を吐き出した。
どうもおかしい、話が旨すぎる。
田崎がウオッカくらいで人事不省となり、その身体を人に預けるなんて。
しかも二階はホテルになっていて、すぐにでも・・・。
そこまで考えて、甘利ははっとした顔つきになった。
田崎のことだ。自分が尾行していたことくらい、当に気づいていたに違いない。
そして、自分を誘導して、このバーにやってきた。
だから甘利が現れたときも、驚いた様子はなかった。
そして立て続けにウオッカを煽り、正体をなくした・・・。
ということはすなわち、
「・・・誘っているのか?この俺様を・・・」
甘利は低く唸った。
誰でも良かったに違いない。そこまでやけになってるということだ。
気づかないうちに、煙草の先がだいぶ長くなっていた。
「おーい・・・まじかよ」
なんで気づいたんだ俺は。
甘利は鋭すぎる自分の頭を恨んだ。