人気の無いバーで、田崎は夕べのことを考えていた。

意識の無いように見えた三好の白い身体が、結城中佐の手によって、少しずつ桜色に変化したこと。

目に焼きついて離れない。

卑猥というよりは、寧ろ聖なる儀式のようだった。

田崎はウオッカを煽った。先ほどからちっとも酔えない・・・。

扉が開いた。誰かが田崎の隣に座った。

「・・・尾けてきたのか」

「ああ。様子がおかしかったからな」

甘利だった。
無口なバーテンに同じものを注文した。

「三好が落ち込んでると思っていたら、貴様まで様子がおかしくなった。なにかあったのか?奴と」
「三好と?いや・・・直接的には何も」
「じゃあ、間接的にあったのか?」
夕べのことはとても説明する気になれなかったが、ふと、甘利はどこまで知っているのだろうという気持ちになった。

「三好はいつからなんだ?」
「あ?佐久間か」
「佐久間じゃない・・・結城さんとだ」

「結城さん?三好は結城さんに惚れているらしいが、結城さんは相手にしてないよ。自分に惚れる学生をいちいち相手にしてたらきりが無いからな」
あっけらかんと言い、甘利はウオッカを飲んだ。
「満更でもないみたいだけど」
「満更でもないって、結城さんがか?」
グラスの中の氷が、涼しげな音を立てた。

「三好が結城さんに懐くのはファザーコンプレクスみたいなもんだろう。噂によると、三好は孤児らしいからな。本当のところはわからんが、俺はそう解釈してる。まあ、あの上から目線のナルシストにも人間らしい弱みがあるってことだな」

「・・・それを彼は利用してるんだ」

田崎の言葉に非難を読み取った甘利は、
「親子ほどの年の差があるんだぜ。心配することはなにもねーよ」
そう言って、田崎の肩を叩いた。

それは・・・あれを見てないからだ。

田崎は薄く笑った。

「なんだ?佐久間とのことで落ち込んでるのかと思ったら・・・」
「落ち込んでたのは君のほうじゃないか」
「え?俺?俺は別に・・・三好に野心はねーよ。弟みたいに思ってるだけだ」
「弟。か。俺もまあ・・・いわれてみればそうかな・・・」

だが、弟の裸に欲情する兄がどこにいる?

田崎はまた自嘲した。

「この雨は止みそうも無い、か」
甘利がひとりごちた。








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