ドイツ。ベルリン市街。

まただ。
菩提樹の並木道が続くメインストリート、ウンター・デル・リンデンの石畳を歩いていると、影のように寄り添いついて来る男が居る。

真木は、路地裏に隠れ、男を待った。
男は、足を速め、後を追ってくる。
男が焦って姿を現したとき、その襟首を掴み、真木は路地裏へと引き込んだ。
「貴様、何の真似だ!」
「久しぶりだな。三好、いや、真木克彦」
「貴様・・・田崎」

あっけにとられて襟首を離す。
自分よりも遙かに長身の田崎は、襟元を正すと、やれやれ、といった風に両手を広げた。
真木は田崎を上目遣いで睨んで、

「アジア戦線にいるはずの貴様がベルリンに何しに来た?」
「あの人に呼ばれてね」
「僕を監視していたのか、どうして」
「理由は俺も知らないさ。想像はつくけどね」

「つまりは信用されてないというわけだな」
真木の声は低くなった。
「君は危なっかしいからな。自信過剰なわりに繊細で」
「ほざけ」
「そう目を吊り上げるな。綺麗な顔が台無しだぞ」

真木は田崎が苦手だった。
誰にでも愛想のよい好青年であるこの田崎は、一方で何を考えてるかわからない。
少しでも気を許せば、たやすく操られてしまう。
フェンシングの腕も優れていて、また、ジゴロの腕は訓練の必要は全く無かった。
美形である彼は、微笑むだけでその目的を達成できたからだ。
女を軽蔑しており、女には冷淡にならざるをえない真木には、田崎は珍しく劣等感を覚えさせる男だった。

「カフェ・アインシュタインに立ち寄るんだろ」
田崎が言った。

「俺は君の後ろの席に座ることにする。この戦時下では貴重な珈琲を飲みながら、今回の任務を説明しよう」








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