「なんで逃がしたんだ」
新見はわめいた。わめきながら暴れて、部屋中のものを壊した。
「大人になりなさい。新見」
次に現れたのは聡子だ。ゆったりと腕を組んで、壁にもたれながら、曖昧な表情を浮かべる。
「あの人はお前の玩具じゃないのよ。お前はあの人を壊してしまうわ」
「俺の玩具だ!」
新見は言い張った。
「ふたりともその辺にしてください。聡子も言いすぎですよ」
最後に田中が出てきて、現場を落ち着かせた。
統合された人格の田中が、本来は一番強い。田中がその気なら、ふたりとも明るい場所へは出られないのだ。
「これでよかったのですよ。あのまま放置すれば、葛西は死んだかもしれない」
「そうよ。問題だわ」
「死んでも良かったんだ・・・俺の手で殺したかった」
田中、聡子、新見。田中の表情はくるくると変わり、かわるがわる別人格が支配した。
「葛西を殺す命令は受けていませんよ」
「そうよ。命令違反だわ」
「関係ないね。俺には・・・俺は、田中じゃない」
「二度と表舞台に出られなくなっても構わないんですか?新見」
田中の脅しに、新見は沈黙した。
「言いすぎだわ。田中。私たちはそういわれるのが何より辛いのに」
聡子が言った。
「新見を庇うのですか?聡子。君の成長は目を見張りますね」
「からかわないで。田中」
傍目から見ると、田中は一人芝居をしているように見える。
だが、それは芝居ではなかった。田中は自分の別人格と交互に会話をしている。
それは異様な光景だった。