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なにしにきたのだろう。
無目的だとは思えなかった。

会いたかったから?

「なににやけてるんだよ」
背中をどつかれて、咳き込む。
「ミツル」
「ったくてめーはよ能天気」
「・・・」
「どした?変だな。今日は」

普段は鈍いくせに、こういうときだけ鋭い。
「なんでもねーよ。オマエ、先帰って」
「え?なんで」
「いいから。オレ。用事ある」
「嘘だろ」

嘘じゃない

「だって、今日は一緒に買い物いくって」
「悪い。またにしてくれ」
「勝手な奴だな」
ぶつぶついいながら。それでも不審そうに。
「なんだ?もしかして」
「妙なさぐりいれんなよ」
「だって、怪しい」

「・・・頼むから」
「仕方ないな。わかったよ」
軽く肩をすくめて、ミツルは鞄を抱えた。
「こんどなんか奢れよ」
「わあったって」
犬を追い払うみたいに、ミツルを追い出すと。
オレは、そそくさと荷物をまとめて、上着を羽織った。

「蒼」
寮に帰って、3階の自分の部屋に駆け上がると、
いない。
もぬけの殻だった。
「あー・・・」
予想はしていたものの、気が抜けて、オレはその場にしゃがみこむ。
「そっか」
話がうますぎると思ったんだ。
たぶん、アイツまたヘンな仕事で・・・

「おかえり」
ドアの外に、蒼はいた。
ガムを噛んでいる。
「あ。蒼」
「遅かったじゃん?待ちくたびれた。テレビもねーしさ」
「談話室にあるよ」
「オレがいたら変だろ」
「・・・」
気が抜けたのと、うれしい気持ちがないまぜになって、
声が掠れた。
「いないとおもった」
「オレが?」
笑って、
「まあ、逃げようとは思ったけどね。なんか・・・」
同じようにしゃがんで、オレの顔を覗き込む。
子犬みたい、いや、子猫みたいだった。

「ね」
自然な動きだった。
オレの首に巻きついた両手を、そのままにして、
オレは蒼を床に押し倒した。
細くて、壊れそうなからだ。
セキセイインコみたいに延ばした黒髪。
切れ長の黒い瞳は、じっとオレを観察するみたいに、睨んでいる。
試しているみたいに

「動物」
「うるさい」
「・・・相馬」
鼓動が近い
体温があがって、どうしようもなく指先が震えた。
うまく、ベルトが外せない。
「オレ、やるよ」
蒼が、鋭い声で言った。

ああ

「煙草。吸ってもい?」
別に許可を求めたわけじゃなく、ただ単に挨拶のようなものだった。
そのまま、勝手にオレの隠してあった煙草を取り出して、くわえる。
その横顔は、大人びていた。
「おまえ、いくつだっけ」
「21」
「・・・」
「嘘じゃない」
うまそうに、煙草をふかして、それから横目でオレを睨む。
「なんか、うまくなったな。アンタ」
「え?」
「・・・むかつく」

「勝手にむかつけよ。くだらない想像だ」
「誰かとねた?あのあと」
「ねてねーよ」
なんで、折角の抱擁のあとに、痴話げんかしないといけないんだ。

「少し黙れよ。蒼。いまは」
「オレ、もういくよ」
「嘘だろ」
「フ」
笑って。
「なんか汗でべたべたになったから、シャワーしてくる」
「待てよ」
オレは焦った。
人に見つかる。
ここは、300人以上もの男どもがひしめく、物見高い寮なのだ。

「見つからないよ」
笑って、蒼は廊下にでた。

なんだかな
オレは、蒼の吸い残りに火をつけて、すぱすぱと吸った。
禁煙だし、見つかったら停学だが、たいていの生徒は隠れて吸っている。
閉じ込められている少年たちの、せめてもの慰めだった。



脱力。

あのあとって、どうしてこんなに疲労するのだろう。
なんだか、トラック10周したほうが、よっぽどらくだ。
眠ってしまいそうだった。
ドロドロに疲れて

でも、眠っている間に、蒼がいなくなるような気がして、気が気じゃない。
なんで、こんなマゾヒスティックな恋愛してるんだ。
恋愛?
こんな恋愛ってありなのかよ。
全然片思いだとおもう。

しかもあいつ、たぶん。
記憶抜いていくつもりだぜ・・・。

違う
たぶん、記憶を抜きにきたんだ。

はたと思い当たり、オレは青ざめた。
話がうますぎる。
オレのことがスキだったとは到底思えないし。
あっさり捨ててったから。

くそ

寝返りを打って、オレは床に転がったまま、天井のしみを眺めた。
顔に見える。
睨んでいる。
悲しみよこんにちわ

絶対思うとおりにはさせない。

オレはオマエを
捕まえてみせる。
ずっと

永遠に







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