ダグラスの家に忍び込み、首尾よく生存者リストを手に入れた俺は、それを使ってあの事故の生存者と連絡を取った。

何人かと会ってみたが、これといった情報を得られないまま数日が過ぎた。

「ええ、私はあの列車に乗っていました。とても怖かったわ」
ドイツ人の若い女性、クララ・クロウリーは、話し始めた。
「貴方は日本人を見たとか。どんな男でした」
「小柄で、少し生意気そうな若者でした。地味な服装でしたが、顔立ちは西洋人といってもいいほど綺麗でしたわ」
葛西だ。
葛西の特徴と合う。
「その男はひとりでしたか」
「ええ。一人旅のようでした。学生に見えました」
クララは落ち着いていた。
大きな灰色の目は恐怖に見開かれていた。
事故を思い出したのだろう。
「貴方とは隣のコンパートメントだったのですね」
「そうです。隣でした。乗り込むときにチラッと見ただけで、あとは、あの事故の少し前に・・・あの、はっきり見たわけじゃないんですけど、たぶん・・・」
「なんですか」
俺は思わず身を乗り出した。
核心に触れる気がした。
「誰かが列車から飛び降りたんです。私も気が動転してて、大変、人が落ちたわ、と、そう思いましたわ」
「それが、隣の日本人の男だったんですね」
「いえ、それはわかりません。でも、その可能性はあります・・・私が見たときは、隣のコンパートメントは空でしたから」
クララは眉をひそめて、そう囁いた。
「その飛び降りた男はどっちのほうに行きましたか」
「わかりません。でもあの、ふたりだったようです。誰かが男を抱きかかえて飛び降りたんだと思います。そのあと列車は衝突しました」
「誰かが男を抱きかかえて飛び降りた」
俺は鸚鵡返しに呟いた。
一体何者だろう。
だが、これは有力な情報だ。少なくとも、男が葛西なら、葛西は生きてることになる。

「私と母は無事でしたけど、母は足を折ってしまって・・・でも、命が助かったんだから、奇跡ですわね。そのお知り合いの方、ご無事だといいですわね」
動いている列車から飛び降りたのだ。怪我をしたかもしれない。
だが、一体どこへ。その男は葛西をどこへ連れ去ったのだろう・・・。

「人探しなら、私、いい人を知っていますわ。有名な探し物専門の占い師ですのよ」
クララは言った。







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