「生存者のリスト?確かにそういうものはあるが・・・」

ベルリン新聞のリカルド・ダグラスは、でっぷり太った赤ら顔の中年の男だった。

「なぜ君がそれを欲しがるんだ?知り合いでも乗っていたのか」
「まあ、そうです」
「名前は?」
「真木克彦」
ダグラスは顔を上げた。
「その名前なら、死亡欄に出ていただろう。亡くなったんだ」
「それを確かめたいのです。生存者リストを貸してもらえませんか」
「ただでというわけにはいかないよ」
ダグラスは狡猾そうな顔で、俺を見た。
「・・・いくらです」
「おいおい。日本人なのに随分無粋だね君は」
ダグラスは笑いながら、俺の膝に右手を置いた。
俺はちょっと眉を上げた。
これは、誘い、だ。

「日本人は肌が綺麗だな。染みひとつない」
「それはどうも」
見るからに無骨な俺に誘いをかけるとは変わった趣味だ。
だが、いかついドイツ人から見れば、無骨な俺も華奢に見えるのだろう。
「部外者の君にリストを見せるとなれば、社内規則違反だ。見つかればこっちもただではすまない。それなりの見返りがないとねえ」
ダグラスの右手が俺の太ももを撫ぜた。
俺はしばらく我慢していたが、立ち上がった。

「お手間を取らせたようですね。時間がないので、これで失礼します」
「おい、リストはいいのか?」
「他を当たります。さよなら」

多少リスクはあるが、リストはダグラスの自宅にあるはずだ。
忍び込めば済む話だ。なにも寝てやることはない・・・。
俺はダグラスに抱かれる自分を想像し、げんなりした。
マスコミというのはどこも腐りきっている。

本来なら色仕掛けは葛西の得意技だ。
葛西なら迷わず奴と寝るのだろうか。想像するだけではらわたが煮えくり返る。
三好はダグラスの性癖を知っていて俺を紹介したのか。
これは、三好なりの嫌がらせなのだろうか・・・。

席を立つ時にさりげなくダグラスの手帳を抜き取っておいた。
自宅の住所と電話番号。これさえあれば、リストは手に入る・・・。







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