田中が部屋を出たと思ったら、また飛び込んできた。

「この野郎、田中に色目を使ったな!」
田中じゃない、新見だ。
顔立ちは同じでも、獣じみた目つきは新見のものだ。

「色目なんか使ってない」
「嘘をつけ!」
新見はわめいて、僕の頬を殴った。

だが、痛くはなかった。口の中が少しきれただけだ。

僕は左手を拘束されているが、あとは自由だ。手の甲で唇を拭った。

「自分自身に嫉妬するなんて、馬鹿馬鹿しいと思わないんですか?」
「田中は俺じゃない」
新見は顔を近づけると、耳たぶを噛んだ。

これまでずっと、新見はほとんど会話らしい会話はせずに、僕を抱いてばかりいた。
だが、これはチャンスだ。

「もし僕を解放してくれたら・・・お礼にいいことを教えてやる」

「なんだ」

「D機関を壊滅せしむるような機密だ」

「お前は勘違いしている。俺はそういうことには全く興味がない。田中は違うがな」
新見は笑った。
乗ってこないか。
「じゃあ、何が欲しい?」
「俺はお前が欲しいだけだ。そして、お前はもう手に入れた。他に欲しいものなどない。残念だったな・・・なぜ笑う」
「僕を手に入れたなんて言うからですよ。この状態で?」
僕は左手の手錠をじゃらじゃらと鳴らした。
「俺はお前の心まで手に入れようとは思わんさ。身体だけで十分だ。だが」
新見はにやりとして、
「お前の身体は俺に馴染んできたようだな。まるで楽器のようだ。俺が鳴らすとよく響く・・・」

新見は僕の唇に唇を重ねて、強引に吸った。
そうしてそのまま僕を再びベッドに押し倒した。








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