「宗像」

部屋の中は真っ暗だった。だが、気配は感じる。
「大丈夫か?」
「・・・秋元か」
声がした。ベッドのほうだ。
「大丈夫だ。少し・・・寝ていた」

宗像はわずかに身じろぎした。
俺は戸を閉めると、ベッドのほうに歩いた。
カーテンからわずかに漏れる月明かりで、慣れてくると夜目が効く。

宗像の声がする。
「葛西は、三好さんが乗るはずだった列車に乗っていたんだ。ケルンからベルリンに向かうその列車は・・・信号機が壊されて、正面衝突をした。テロと事故の可能性は半々だが、結城さんはテロだと信じている。葛西の遺体はなかった・・・あったのはマッチ型の秘密道具だけだ・・・それが葛西が乗っていた確かな証拠となった」
「宗像」
「葛西は・・・どこへ消えたんだ?煙のように消えちまった・・・」
「葛西は死んだんだ。もう戻らない」
「遺体はないといったろう?葛西は生きている」
宗像は壁のほうを向いて、ベッドに横たわっている。
俺はその横に寝そべり、後ろから彼を抱きしめた。

「生きているなら連絡くらいはするだろう。もうひと月もたっているんだ」
俺が言うと、
「連絡もできないような状態なのかもしれない。大怪我をして意識がないとか・・・あるいは・・・あるいは、記憶喪失とか・・・」
「宗像」
俺は静かに語りかけた。
「ショックなのはわかる。でも、現実は受け入れたほうがいい。葛西は、恐らくもう・・・」
宗像の身体が小刻みに揺れ始めた。
泣いているのだ。
俺はその背中を抱きしめることしかできない。

身元不明の遺体。埋葬。立会人・・・田崎。証拠の秘密道具。
「随分用意周到じゃないか。まるで、事前に事故が起こることを予見していたみたいだな」
何気なく呟いた俺の言葉に、宗像が反応した。
「それは俺も変に思っていた・・・奴ら、事故を予測していたのか・・・?」
「まさかね。だってそうだとしたら、最初から葛西を」

死なすつもりで列車に乗せた・・・?
俺と宗像は顔を見合わせた。








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