「宗像」

気がついたときはベッドの上だった。
消毒薬臭いシーツ・・・病院だ。

「葛西。無事か」
「ああ。お前が庇ってくれたお陰でね」
だが、葛西は腕を吊っていた。
「どうして・・・」
「たいしたことない。ちょっと折れただけだ」
「ここは?」
「病院だよ。・・・聡子が助けてくれた」

身体を起こそうとすると、激痛が走った。
「無理をするな。全身打撲で全治一ヶ月の重症だ」
葛西を抱えて二階から落ちたのだ。無理もない。

「聡子って?あの別人格とかいうあれか」
「ああ。田中を説得して救急車を呼んでくれたらしい」
「ややこしいな」
俺は額に手をやった。
「お前は?寝てなくていいのか」
「ああ。お前は3日も寝ていたんだ。僕のほうは大丈夫だ」

葛西は柔らかく笑った。
また、生きて葛西とこうして会えるなんて夢のようだ。
俺は葛西に手を伸ばした。
葛西がその手を取り、ぎゅっと握り締めた。

「今回のことは不問に付すそうだ。良かったな」
「結城さんが?」
「占いを妄信するのは良くないと言っていたぞ。どういう意味だろう」
なぜ占いのことを知っているんだ。
まさか・・・。

「あの占い婆が結城さんだったというのか?」
「さあね。僕は見てないから知らないよ」
葛西は肩をすくめた。

葛西の手は温かかった。生きている。それだけで十分だ。
「早く元気になれ」
葛西は腰をかがめて、俺にキスをした。
ご褒美のキス、か。
王子にしては情けない状況だが、まあ、いいか・・・。

窓辺でカーテンが揺れていた。
明るい光が、部屋に差し込み、虹色の影をつくっていた。






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