「貴様・・・それはストックホルムシンドロームか」

「え?なに」

「嬲られているうちに情が湧いたんだろう?誘拐犯に誘拐されたほうが恋をする、よくある話だ」

「はあ!?何を言ってるんだ。宗像」

「そうでなければ貴様は騙されてるんだ。その田中という男に」

俺は銃を取り出し、弾を入れ始めた。

「本当にやる気なのか?」
葛西は俯いている。
「止める理由はないだろう」
「ある。田中の中には聡子という幼女もいる・・・ひとりじゃないんだ」
「お前はどうかしているよ」
俺は言った。
「僕はほだされてなんかいない。田中を殺したくないだけだ」
「お前・・・自分がなにをされたかわかっているのか・・・」
「僕は男だ。たいしたことじゃない」
「本気で、言ってるのか」
「ああ」
葛西はよろめいた。抱きとめると、呼吸が荒い。熱があるのだろう。

俺は葛西を抱え上げると、部屋を出た。
復讐よりも、葛西のほうが大事だ。
早く病院に連れて行かなければ。

石段を降りながら、ラプンツエルの話を思い出していた。
王子はあれからどうなった?
たしかラプンツエルの髪を切られて王子は塔からまっさかさまに堕ちた。

ビシュ。
闇の中から弾が飛んできた。左足から血が噴出した。
俺はバランスを崩して、石段を踏み外し、葛西もろとも階下に落ちていった。

お前さんの恋人、あれは魔女だよ。男を狂わせる・・・。

遠くからカーラの声が聞こえた。






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