その城は、城というよりは廃屋だった。

扉は堅く閉ざされていて、蔦がびっしりとはびこっている。
外から赤い尖塔が見えている。
あそこか・・・。

俺はラプンツエルに会いに行く王子よろしく、蔦を這い登って、中に入った。

人気はない。
大きな鉄の南京錠をあけると、尖塔に続く長い石段があった。

カーラは正確に葛西の顔立ちを描写した。
それを見たとき、俺は彼女の占いを信じた。
世の中には、解明不能な不思議なことも沢山ある。
それだけはわかっていた。

塔の上まで上ると、また鍵のかかった部屋があった。
「葛西?いるのか」
大きな声で呼びかける。
「その声は・・・宗像か?」
葛西の声だ。
俺は鍵を開ける手間を惜しんで、体当たりをした。
3度ほどぶつかると、ドアはあっけなく開いた。

「葛西!」
「宗像・・・どうしてここが・・・?」
「占いのばーさんに聞いた」
「占い?」
葛西はベッドの上に手錠で繋がれていた。身体はほぼ裸だ。
そのうえ傷だらけだった。
「お前・・・」
俺はちょっと言葉を失い、だが、手錠を外すべく、ピンを差し込んだ。
鍵は間もなく開いた。
手首に酷い痣が出来ている。
つながれたまま、嬲られたのだろう・・・。
俺は自分の上着を脱いで葛西に着せ掛けた。

「誰なんだ」
「・・・海軍のスパイ、田中という男だ。話せば長くなるが・・・」
「殺してやる」
死ぬな殺すなはD機関の決まりごとだが、俺はもうとっくに勝手な行動をしている。
今更人を殺したところで、誰も驚かないだろう。
「だめなんだ」
葛西は言った。
「俺をやったのは新見という男だ。新見は田中の別人格で、新見だけを殺すことはできない。それに・・・新見は命の恩人なんだ・・・」








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