「ベルリン郊外で列車事故?生死不明?・・・葛西が」

秋元から状況を告げられた時、俺はぽかんとした。
悪い冗談だろうと思った。

「おい、生死不明ってどういうことだ!?葛西は生きているのか!?」
「それがわからないから生死不明なんだろうが」
俺は秋元の胸倉を掴むと、背中を壁にたたき付けた。
秋元はわずかに眉をしかめたが、それだけだった。

「中瀬が結城さんの部屋を盗聴して得た情報だから確かだ。ちなみに葛西は身元不明の遺体として埋葬されたという情報だ。酷い事故で、肉片しか残らなかったらしい。まあ、恐らくは・・・」

軍隊で生死不明というとき、それはほぼ死を意味する。

「そんな・・・葛西が死ぬはずはない・・・あいつが・・・」
「事故がおきたのはひと月も前だ。結城さんは、俺たちには何も知らせるつもりはない・・・わかるな」
「わかるものか・・・」
「田崎さんは埋葬に立ち会ったらしい。戻ってきている。話を聞いたらどうだ」
「田崎さんが・・・」

なぜ、田崎さんなのか。なぜ、埋葬に立ち会ったのが俺ではないのか。
俺は、秋元の襟を離し、強く唇を噛んだ。
なぜ、葛西をドイツへなど行かせたのだろう。
なぜ。


「宗像。珍しいね」
田崎さんは、俺の後ろに秋元を探したが、俺はひとりだ。
「秋元は一緒じゃないの?まあ、いいけど」
「ベルリンで事故があったって、本当ですか」
「盗聴は良くないよ」
田崎は人差し指を唇に当てて、囁いた。
「あいつが死んだって・・・本当ですか」
田崎はポケットから、小さなマッチを取り出した。
「遺体はなかった。これがあっただけだ」
「これは?」
「結城さんに確認したところ、葛西の持ち物らしい。マッチではなくて、秘密の筆記用具だ。特殊な塗料で文字が浮かび上がるタイプのね」
「なぜ・・・」

「公式の発表は事故だが、おそらくテロだろうと結城さんは言っていた。葛西は任務遂行中、テロに巻き込まれた。それだけだ」








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