「いつまで死んだふりを続ければいいんだ?」

背後で突然、朗々とした男の声がした。
死にかけているとばかり思っていた男が、平気な様子で上体を起こして、片膝を立て、こちらを見つめている。
そして手にはミーシャのライフル銃・・・嵌められた!
ミーシャは驚愕し、泣いていたことも忘れて思わず小田切の顔を見上げた。


「貴様ら・・・貴様らグルだったのか!?俺を騙して・・・」
「そうだ」
小田切は言った。
「よく見ろ。俺は君のお父さんじゃない。関東軍の元将校だ」
小田切の声は掠れた。

俺は君のお父さんじゃない・・・?俺のことを、知っていたのか・・・!
「ミーシャの両親は関東軍に殺された、幼い妹も。ロシア兵なら誰もが知っている」
ライフルの照準を合わせながら、もう一人の男が言った。
「俺のことを知って・・・利用したな・・・!」
ライフルに狙われているのも構わずに、ミーシャは小田切に食って掛かった。

だがお父さん・・・どうしてお父さんと間違えたりしたのだろう。

「写真だ。いつも肌身離さず持っているだろう。白いシャツにレーダーホーゼンのつりズボン。幸い小田切は背格好がよく似ていた・・・」
もう一人の男は、銃を構えたまま小声で囁いた。
「福本」
たまらず、といった感じで、小田切はもう一人の名を呼んだ。
「もういいだろう。子供をいたぶるのはよせ」
「子供?確かに子供だが、ただの子供じゃない。れっきとした見張りのロシア兵だ」

銃声が響いた。
振動で納屋の屋根の雪がどさどさと地面に落ちた。
辺りは静まり返った。いつの間にか雪は止んでいた。

しばらくすると、また雪が降り出した。
折角地面から顔を出した小さな白い花を隠すように、雪はこんこんと降り続けた。



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