凍りついた大地をつるはしで掘り返していく作業は、傍で見るほどたやすくはなかった。薄いボロボロのシャツとズボン、壊れかけた軍靴だけで吹雪に立ち向かい、たったひとりで墓を掘らされている。
この収容所では将校クラスは小田切しかいない。そこでこの一番辛い任務を請け負わされたのだった。
他のものは少し離れた場所で鉄道を敷いている。
だが、考えようによれば、収容所でひとりになれることはないのだから、ひとりになれるのは有難い。
小田切はそう思いながら、寡黙に墓を掘り続けた。

またひとり、運ばれてきた。
死んでまだまもない、まだ温かい死体・・・。いや、違う、まだ生きていた。
さすがの小田切もはっとして顔をあげた。
「まだ生きている」

その顔に銃口が向けられた。例のミーシャだ。蒼白な顔で、
「埋めろ・・・」
目の下のクマはいよいよ黒く、荒んだ青い眼をしている。

「まだ、生きている」
小田切は、ゆっくりと今度はロシア語で言った。
「貴様・・・言葉がわかるのか・・・?」
驚いた顔で、ミーシャは乾いた唇を舐めた。
「手当てを、させてくれ」
「・・・どのみち・・・この男はもう死ぬんだ・・・だから」
小田切は銃口を掴むと、自分の額に当てた。
「なにをする!」
ミーシャは悲鳴を上げた。
「俺を撃つか、手当てをさせるか、どちらか選べ」

「・・・いいだろう・・・」
根負けしたように、ミーシャが言った。
「ただし、貴様は今日からしばらく飯抜きだ。お気に入りのコーンビーフもな」
精一杯の虚勢を張って、ミーシャは銃を降ろした。




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