長いキスが終わると、佐久間はしばらく呆然としていたが、はっと我に返り、三好の襟首を掴んだ。

「貴様ー、またそうやって俺を調子に乗らせて、笑いものにするつもりだろう!もう誤魔化されないぞ!俺は騙しあいの<ジョーカー・ゲーム>はキライなんだ!ポーカーが好きなんだ!」

「さすがイワシの頭、キスでは誤魔化されないか」
三好は自分の唇を舐めると、先ほど佐久間から取り上げた日本刀を佐久間の首に翳した。
「じゃあ、これならどうです?良ければ僕が介錯しますよ」

「うぬ・・・卑怯な」
「スパイに卑怯は褒め言葉ですよ。佐久間さん」
笑顔でぐさりとやりかねない、三好の言葉に、佐久間はぐうの音も出なかった。



部屋に戻ると、佐久間は結城中佐に呼び出された。

渡された紙には、とんでもない額の罰金が書かれていた。
「な、なんですか、この罰金は!?」

「満開の桜の下で、貴様は随分いい思いをしたそうじゃないか」

「それとこれとは・・・!大体こんな馬鹿げた金額は」

「風紀を乱した。充分すぎる罰金理由だ」

「そんな・・・!あれは三好が勝手に・・・」

「ほう、告げ口とは、貴様、貴様の好きな<卑怯>という言葉の意味を知っているのか?」

「ですが・・・」

「三好はただ口説きのテクニックを磨いているだけだ。自惚れるなよ、貴様」
結城中佐はそう釘を刺した。



「納得いかないって顔だね」
部屋を出ると、波多野がいた。

「罰金をとられた」
「罰金くらいですんで良かったな」
波多野は両手を頭の後ろで組んで、
「三好は結城さんのお気に入りなんだ。下手に手を出すとそうなる」
「お気に入り?じゃあ、あれは」
嫉妬か。
佐久間は結城中佐の鋭く光る暗い目を思い出した。

「三好は以前、対拷問の訓練中に、自白剤を打たれて、本心を告白したんだ。自分は結城中佐が好きだ。と」
「なんだと?」
「まだ入ったばかりのときだったから、自白剤の効果に逆らえなかったんだろう。皆は静まり返った。結城中佐も拷問の手を止めた」

波多野は冷めた目で、佐久間を見上げた。

「さすがの魔王も心が動いたんじゃないかって、俺たちは噂してたんだ。三好はあの通りプライドのお化けみたいな男だから、あの出来事は覚えていないらしいが」
「それは本当の話なのか?」

「さあね、信じるも信じないも貴様次第だ」

波多野はそういって、ひらひらと手を振って見せた。
まただ、と佐久間は思った。
こいつらは、自分たちだけの<ジョーカー・ゲーム>に興じているんだ。
そうして真相を煙に巻く。
ルールさえも理解できない俺を残して。








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