「本当にいいのか?」
夜。
静まり返る寮の部屋で、佐久間は尋ねた。
「構わないよ」
三好は答える。

三好の両肩に手を置いて、佐久間はもう一度尋ねる。
「本当に、いいんだな?」
「くどい」
三好は上目遣いに佐久間を見上げて、
「貴方こそ、覚悟はあるんですか」
と尋ねた。

外は激しい雨が降っていた。
部屋の中は薄暗く、二人の顔が薄明かりにほのかに見えるだけだ。
佐久間は目の前の青年の顔をまじまじと眺める。

薄明かりの中で見る三好の素顔は、ぞっとするほど艶かしい。
白い陶器の能面に、紅を引いたような赤い唇。
瞳は濡れたように光っている。
やはり猫みたいだ、と佐久間は思った。

「三好」
「やるなら早く済ましてしまいましょう。ぐずぐずしていると誰か来る」
シチュエーションの割りに色気の無いことを言って、三好はもう一度佐久間を見上げた。
佐久間は目を瞑り、三好の顎を持ち上げると、その赤い唇に唇を重ねた。


「はい。おめでとう。三好の勝ちだな」

いきなり電気がついた。どこに隠れていたのか、波多野、神永、甘利、田崎、実井が部屋の中から現れた。
「貴様ら・・・いつの間に・・・どうしてそんなところに」
「賭けてたんだ。三好が何日で佐久間さんを落とせるか。5日とは最短コースだ」
と甘利。
「3日というのがあったぜ?」
「あれは貴様だろう」
「もう少し邪魔しなければ面白いものが見れたのに」
「誰だ、電気つけたの」
「波多野だよ。嫉妬したのか、貴様」
「冗談はよせよ」
和気藹々としている甘利たちをよそに、佐久間は呆然としている。

俺はまたもジョーカーを引かされたのか・・・?

振り返ると三好の赤い唇の両端があがっていた。



inserted by FC2 system