「たったあれだけのお酒に酔ったんですか?」
三好は佐久間を振りほどこうとするが、佐久間は軍人らしくバカ力である。

「痛い」
佐久間は悲鳴を上げた。
「首を蜂に刺された」
刺したのは蜂ではなく、三好の袖のボタンに装着した針だった。
佐久間は手を離し、三好は解放された。

「イワシの頭に興味があるのは猫だけです。僕は猫じゃありません」
そういい残して、三好は走り去った。
「あいつ・・・」

三好は猫に似ている。
D機関の誰かが言っていた気がする。
甘えてくるくせに、その気になると逃げる・・・。
そういう意味だろうか。

首に手をやると、僅かに血が滲んでいる。
蜂に刺されなければ、三好の体を抱いていられたのに。
それとも、蜂などいなかったのか。
あれは三好の抵抗・・・。

確かに自分は酔っているのかもしれない。
酔っているせいで、三好の男にしては赤すぎる薄い唇が気になったのだ。

「相手は男だぞ・・・何を考えている・・・」
そうひとりごちて、佐久間は月明かりの中を家路を急いだ。

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