「貴様たちが居ると、芸者が色気づいて困る。先に帰れ」
と結城中佐は言った。

「体よく追い出されたな」
佐久間が言うと、
「貴方が後ろから押すから見つかったんだ。責任は貴方にあります」
と三好。

「大体なんで俺を誘ったんだ?ひとりで来ればよかったじゃないか」
「こんな若造が<花菱>みたいな料亭でひとりで飲むと思いますか?」
「・・・じゃあ何か?別に俺じゃ無くても全然良かったのか?」
「佐久間さん暇そうでしたから」

三好が佐久間と仲良くなる為に、自分を選んだのではなく、単に暇そうだったから選ばれたのだとすると、だいぶ自惚れが過ぎていたようだ。

佐久間は三好の男にしておくのは勿体無いようなつやつやしい横顔を眺めた。
「お前はそんなにあの男が好きなのか?」
佐久間が思わず尋ねると、三好は心底軽蔑したように、
「何を言ってるんですか?佐久間さんはとんだイワシの頭ですね」

だがあれは明らかに嫉妬だった。
佐久間はそう思ったが、口には出さなかった。
D機関の人間は、結城中佐に心酔しているらしいとは思っていたが、まさかここまでとは。
「なに見てるんですか」
「なんでもない」
意外な一面を見た。そのことが、佐久間に三好に対する好奇心をもたらした。

「お前のことを、もっと、知りたい」

気づけば、声に出していた。三好は驚いたように目を見開いた。

月の光が穏やかに二人を包みこんだ。
「佐久間さん。僕は」

三好の言葉を待たず、佐久間は三好を抱きしめた。

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