自分に覆い被さっていた佐久間の体を引き剥がすと、いつの間にか雨がやんでいることに気づいた。

「僕は・・・なにやってんだ・・・」
三好はそう呟いた。
それに賛同したかのように、外から声をかけるものがいた。

「なにやってるんだ?・・・三好、だったのか」

甘利だ。
傘を閉じながら、小屋の中を覗きこんでいる。

「あと、佐久間?か」
三好は不意を突かれて、その猫のような目を見開いた。
「何で貴様が!」

こんなところを見られるなんて!三好は思わず顔を赤らめた。
佐久間に本気ではない、しかし、どうにも罰が悪い・・・
「いや〜」
甘利は悪びれもせずに笑った。

「芸者遊びの帰りなんだ。ここの上を通りかかったら、何だか色っぽい声が聞こてね、思わず覗きに来たってわけだ。好みの女がいると思ったのにな〜。お前の声か?」
「ち、ちがうっ」

「そうかぁ?しかし佐久間の声にしては・・・」
そこまで言うと、甘利は突然後ろを振り返って言った。

「ちょっと可愛すぎる声でしたよねぇ?結城さん」

「結城さん!?」
三好は思わず叫んだ。

「結城さんだと!?」
三好の知らないところで、盗聴していた波多野も叫んでいた。
「ほらね、<ジョーカー>は何でもお見通しだ」
田崎は<ジョーカー>のカードをナイフのように投げ、襖に突き刺した。

「遊びが過ぎだようだな、三好。
寮に帰って服を着替えろ。風邪を引くぞ」
と結城中佐は言った。
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