「一緒に料亭にでもいかがですか」

三好に誘われて、料亭<花菱>にやってきた。

何をするのかと思えば、結城中佐の隣の部屋を確保し、その監視をするつもりらしい。

「あ、あんなにくっついて。離れろ、芸者・・・」
「三好、お前・・・」

常に冷笑的で上から目線のナルシストだとばかり思っていた三好が、頭から湯気を出さんばかりに興奮して、襖の隙間から隣を覗いている。
俺は一体何の為に呼ばれたんだと佐久間は思ったが、三好の意外な面を見たような気がして、案外面白かった。
三好が自分を料亭に誘ってきた時は、もしかして俺のことを?と自惚れたものだったが。

隣の結城中佐の部屋では芸者をあげてドンちゃん騒ぎである。
一方、佐久間と三好といえば、さきほどから三好が隣の部屋を覗くのに夢中で、佐久間は取り残されていた。佐久間は、三好の肩越しに、隣を覗き込んだ。
結城中佐は両側を芸者に囲まれて、お手付きをして遊んでいる。
すると右側に居る芸者が、結城中佐の口に、肴を食べさせようと箸を寄せた。

「あの女、調子に乗りやがって・・・もう我慢できない!」
三好がそう叫んだ途端、二人はバランスを崩して、隣の部屋に雪崩れ込んだ。

「まあ、お客はん、どうなさったんどす?」
芸者はびっくりして、目を白黒させている。
「三好。佐久間」
結城中佐は平然として、二人の名を呼んだ。

「貴様たちも飲むか」
三好はばつが悪そうな顔をしていたが、差し出された杯を受け取った。
「お客さんもどうぞ」
芸者に差し出された杯を受け取り、佐久間もそれに酒を受けた。

「それでは乾杯といこう」
結城中佐はニヤニヤしている。三好たちの意外な行動が面白かったらしい。

「乾杯」
3人はそれぞれ杯を飲み干して、杯を叩き割った。


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