酒に酔った神永は、調子に乗ってしゃべり始めた。
「でね!三好がテレパシーが使えるらしいんですよ!でもね、そんなのって信じられますか?」
まずい。
僕はさきいかを食べる手を止めた。
「テレパシー?・・・」
結城さんの眉が曇る。と、同時に、合点がいったような表情になった。
「神永。冗談は顔だけにしておけよ」
僕は言ったが、神永は、
「こーゆーのは結城さんに相談したほうがいいんらって!ね、ゆうきさん、そうですよねっ?」
僕の背中をどんどんと叩いて、一人で盛り上がっている。
「まぁ、そうだな」
結城さんは言った。
数日後。僕は結城さんに呼ばれた。
「開けてみろ。(これで・・・解決だ)」
箱を開けると、中に黒い指輪が入っていた。
「これって・・・」
「ゲルマニウム指輪だ。それを嵌めれば、テレパスで他人の思考を読んだりはできなくなるそうだ。(つまり、解決だ)」
結城さんは指輪を手に取り、僕の左手の薬指に嵌めた。
「結城さん・・・僕は・・・」
「要らなければ捨てろ。もう下がっていいぞ」
結城さんは背中を向けた。
僕は嵌められた指輪をじっと見つめた。
それは、黒い鎖のように、僕の薬指に巻きついていた。
とらわれるな・・・
結城さんの声が聞こえた気がした。
夏の終わりのことだった。