「それなら話は別だ。貴様は普通の子供ではない。夜伽をしてみろ」

夜になって、意を決して、佐伯の寝室を覗いた。
明かりがついている。
佐伯は本を読んでいたようだ。

「何を突っ立っている。中に入れ」
俺は扉を閉めた。

蝋燭の明かりに浮かび上がる佐伯の顔は、凄絶なほど美しかった。
豪華なビロードの真紅のガウンを纏っている。その下は恐らく裸だ。
佐伯は本を閉じると、人差し指で俺を手招きした。
俺はベッドの横まで歩いていった。

「なにを緊張しているんだ?」
佐伯はからかった。
俺の歩き方が、あまりにもぎこちなかったからだろう。

「どうした、泣き出しそうな顔をして。慣れている、といったのは嘘だったのか?」
そうだ。嘘に決まっている。
男を相手にしていたら、とっくに男娼に転落していただろう。
「うそ、じゃない・・・」
声が震えた。
「そうか」
佐伯はそういって、俺の髪を撫ぜた。
「じゃあ、そのケイケンとやらを見せてもらおうか」
佐伯は意地悪く言った。
俺が黙っていると、
「まずは、キスをしてみろ」

俺は、ベッドの上に身を乗り出し、佐伯の薄い唇に唇を重ねた。
その途端、手首を引かれ、逆に押し倒された。
キスをしながら、胸のリボンを解き、そのリボンで俺の手を縛る。
「嘘をついた罰だ」

佐伯のキスだけで、全身が痺れ、呼吸が苦しくなった。
「俺を誘ったこと、後悔しろ」
甘い声が、鼓膜に響いた。

後悔なら、もうしている。
深い穴に堕ちて行く様な感覚が、真に恐ろしかった。
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