佐伯は、整った端正な顔立ちをしている。
切れ長の目元は涼やかで、唇は皮肉に歪んでいる。
黒髪は綺麗に後ろに撫で付けられて、わずかな前髪を前に垂らしている。
鍛えられた均整の取れた体つきは、軍人のようでもあった。
軍人。
そうだ、佐伯に感じる威圧感は、軍人のそれに似ている。
言うことを聞かなければ殺される、といったような。
だが、佐伯の暴力を見たのは、俺を助けてくれた時だけだ。
なにかの魔術のようだった。
カーチスは吹っ飛んで、ゴミ箱に顔を突っ込んで、気絶した・・・。
俺は、糸のついた人形みたいに、佐伯の後をついて行った・・・。

ついて行ってはいけないと、心のどこかは感じていた。
相手は魔王かもしれない、ついていってはいけない・・・。
魔王は子供を攫い、その心臓を食べるのだ・・・。

「どうした」
俺がぼんやりしていると、佐伯が尋ねた。
「俺が・・・下賤のものだから・・・」
「なに?」
「・・・手を、触れないのですか」

「くだらんことを」
佐伯は取り合わず、煙草をふかした。
「被害妄想だ。もう寝ろ」

「子ども扱いはやめてください。俺はもう16になった」
「・・・なるほど、立派な大人だな」
佐伯は煙草を灰皿にもみ消し、少し考える目つきになった。

「貴様、自分の言葉の意味がわかっているのか?ガキの癖に、この私を誘っているのか・・・」
佐伯の鋭い眼光が、値踏みをするように俺を見つめる。
俺は負けじと睨み返した。
「・・・やめておけ。男に抱かれたことはあるまい」
「け、ケイケンならある!マスターが驚くくらい、沢山・・・」

「ほう?」
佐伯は初めて俺に興味を持ったみたいに、片方の眉を上げた。
「それなら話は別だ。貴様は普通の子供ではない。夜伽をしてみろ」

どくん。また、心臓が跳ねた。
俺はとうとう、マスターを誘うのに成功したのだ。


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