無人島にボートが迎えに来たのは、翌日の明け方だった。

「無事だったか」
神永と福本だ。
福本が運転している。

「助かった」
波多野はほっとして、実井を振り返った。
服がまだ乾いていないので、ふたりとも上半身は裸だ。
「なんか着ろよ」
言って、神永は自分の上着を実井に羽織らせた。

波多野がそれを疎ましげに見ている。
軽い嫉妬を覚えたが、神永に悪気があるわけではない。
一晩中抱き合っていた、その痕跡がいたるところにあるのだが。
波多野は夜までの長い時間を思った。


砂浜にたどり着くと、結城の姿があった。
「無事に確保しました」
神永が報告を終えると、結城は二人の前に立った。
実井はわずかに目をそらした。
それを、結城は見逃さなかった。

次の瞬間、実井は結城に殴り飛ばされた。杖は地面に転がった。
「!?」
波多野は驚いて、思わず実井に駆け寄った。

「・・・わかっているな」
「はい」
実井はこたえた。
起き上がって、口元を拭い、ぷっと何かを吐き捨てた。血に塗れた歯だった。

「結城さん・・・」
なぜ、実井だけが殴られたのか、理由がわからず、波多野は呆然とした。
「訓練だと思って侮るな。侮れば、死が待っている」
そういい残し、杖を拾い上げて、結城は背を向けた。

「大丈夫か?」
実井を助け起こし、神永が言った。
「いいんだ・・・僕が悪い」
落ちた上着を拾い上げ、実井は自分で羽織った。

「また雪になりそうだ」
福本が言った。







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