「あま・・・りっ・・・」
ボタンを外すのももどかしく、田崎のシャツを脱がせて、甘利は猛々しいキスをした。
キスをしながらも、手は忙しくズボンのベルトを外す。

「・・・電気を、消してくれ・・・」
「イヤだね。お仕置きだって言ったろ?」
「・・・ちょ・・・と待って、甘利・・・」
田崎が目を見開いた。
男との経験なら、自慢できるほどある。
だが、明かりのついたままでの痴態など、さすがの田崎も経験がなかった。
男同士の情事は暗闇の中でひそやかに行われる儀式のようなものだ。それなのに。
「甘利・・・お願いだから」
息があがる。
甘利の頭は順番に首筋、胸、腹へと降りてゆき、最終的には目的のものを口に含んだ。
「!」
甘利が舌を鳴らす、卑猥な音が響く。
明るい部屋で、田崎のものをうまそうに食す、甘利はちょっと食人鬼みたいだ。

「お前、オックスフォードにいたんだろ?」
田崎のものを舐め上げながら、甘利がふいに笑った。
「・・・どうして」
「ファイルを見た」
ファイル?結城中佐が机の中にしまっている秘蔵ファイルのことか。
「・・・・・・はあっ・・・」
田崎は大きく息をついた。
思考がかき乱される。

「向こうで恋人は?いたんだろ?」
「・・・えっ・・・?・・・・ああ・・・まぁ・・・適当に」
「適当に?」
甘利の舌が動きを止めた。途端に、焦らされているようで、田崎が眉をひそめた。
「答えないと途中で止めるぞ」
「・・・適当に見繕って・・・付き合っていたよ」
日本人は欧米人から見下されていたが、幸いにも田崎は東洋的な顔の美しさとミステリアスな雰囲気、そうしてフェンシングの腕も幸いして、英国人の恋人には困らなかった。
もっとも、いずれも本気ではなく、半年も続かなかったが。
「ふうん。だろうな」

「甘利だって、恋人くらいいたんだろう?」
そう質問すると、甘利は今度は手で、田崎を弄びながら、
「男と付き合ったのは、お前が初めてだ」
そういいながら、身を乗り出して、再び田崎の目を覗き込んだ。

「ガイジンは良かったかよ?」
田崎は答えを躊躇った。
どう答えても、甘利は怒るに違いない。
「人に・・・よるよ」
「何人くらいと寝たんだ?」
「・・・いちいち覚えていないよ。通り過ぎる人も多かったし」

正直、英国にいる間は、不思議なくらいにもてた。
日本人と違って、向こうの人は積極的だということもある。
さらに、ものめずらしさと、日本人的なシャイさが、英国人には受けたのだ。
田崎はほとんどオックスフォードでは魔女の扱いだった。
「手当たり次第寝たってわけか」
甘利は唸った。自分の言葉に傷ついた様子だ。
「甘利・・・」

「不思議だったんだ。お前は随分慣れた風だったからな・・・」
甘利の声は低くなる。
「床に這いつくばれ。お前を犯すから」

田崎は無言で床に手をついた。
「・・・うあっ・・・」
いきなり、慣らすこともしないで、甘利が身体に入ってきた。
身体を引き裂かれるような痛み。

いつもはポーカーフェイスの田崎も、さすがに苦悶の表情を浮かべ、またそれを見られているという屈辱に青くなった。
「・・・いい眺めだ」

甘利は田崎を犯しながらも、妄念に心を奪われて、上の空だった。

過去に誰かが田崎を抱いた。
それが許せなかった。

田崎の過去も、甘利の嫉妬も、欲望も全てを飲み込むようにして、夜は続いた。









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