「大丈夫か、三好」
小田切が尋ねた。

「なにが?」
軽く咳き込んで、三好が答える。
「風邪を引いたな。どれ」
小田切が自分の手のひらを、三好の額に押し付けた。

「ん、よくわからんな」
そういって、今度は自分の額を三好の額に当てた。

「熱があるな」
「ないよ」
言いながらも、三好は口元を押さえて、堰を誤魔化している。
「無理するな」
「おい」
小田切が三好を抱えあげたので、田崎が声を上げた。

「三好をどうするつもりだ」
「どうって、部屋に運ぶだけだよ」
「ひとりで歩ける」
三好が抵抗したが、小田切は腕を緩めない。
三好を抱えたまま、食堂を出て行った。

「・・・小田切のやつ」
「小田切なら安心だろ。お前と違って」
背後から声をかけたのは、甘利だった。
「どーゆー意味だ」
「そのままの意味だよ。まだ奴に未練が?」
「・・・未練があるのは、甘利のほうだろ?見ていたよ。勝ちを譲ったな」
「勘繰るなよ。深い意味はない」
「どうだか」
吐き捨てるように言って、立ち去ろうとする田崎の腕を掴んだ。

「なぜ俺を避ける?俺がなんかしたか?」
「俺に聞くなよ」
甘利の腕を振り払い、田崎は目をそらした。

「あの夜のことは、もう忘れてくれ」
「ふざけるな」
田崎を壁際に囲い込み、甘利は片手を壁についた。
「そんなことは許さない」
「・・・・許したくないのはこっちのほうだ」
「なんだと?」
「甘利、ここではまずい。部屋へいこう」
田崎が言った。


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