朝。
食堂で小田切がコーヒーを飲んでいると、三好がやってきた。
「疲れた顔してるな」
「え?ああ・・・そう」
向かいに腰を下ろす。
「なんか。ヘンな夢をみて」
「夢?どんな」
「・・・結城さんに抱かれる夢」
ぶほっ。小田切がコーヒーを噴出した。
「あーあ、しみになるぞ」
三好が指摘すると、小田切は口元を拭いながら、

「ゆ、結城さんに抱かれる夢?」
「なんかリアルで・・・少し怖かった」
「なんだそれは、お前の願望か?」
「願望?」
よくわからない。少なくとも、嫌な感じはしなかった。
「あんまり違和感なかったんだ。初めてじゃない感じで」

俺は今、とんでもない告白を聞かされているじゃないだろうか。
小田切は、顔を隠すように新聞を広げた。
「なんでそれを俺に聞かせる?」
そんな話を聞かされれば、イヤでも想像してしまう。
結城中佐に抱かれ、裸で喘ぐ三好の艶姿を。

「小田切なら、安全だろ?」
三好は赤い唇を曲げて笑った。
「俺なら安全・・・ってどういう意味だ」
愚弄された気がして、小田切は気を悪くした。
「煽ってると思われたくないからね」
三好はロシア紅茶を入れて、カップを手にした。

確かに、自分には田崎や甘利のような、三好に対する色気はない。
だが、何も感じない朴念仁のように扱われるのは心外だ。
俺だって、そんな話を聞かされれば、いろいろ考えてしまう。
結城に対するイメージだって、歪められてしまう・・・。
「福本には言わないでくださいよ」
「福本?なぜだ」
「福本は貴様とは違う。いらぬ興味を掻きたてたくない」
三好はロシア紅茶を飲んだ。

三好の頬がわずかに上気するのを、小田切は眺めていた。
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