「佐久間さん、起きてください」
揺さぶられて、佐久間は夢うつつから帰還した。

「なんだ・・・朝か」
「こんなところで朝を迎える客はいませんよ。全く、何も知らないんですね」
「娼婦を買ったことはないからな・・・」
「殺人者かも分からない相手とよくすやすや眠れますね。たいした神経ですよ、大物ですね」
「・・・何時だ」
「4時半ですよ」
「まだそんな時間か・・・もう少し・・・」
実井の頬に触れようと伸ばした手を、実井は払いのけた。
「ダメですよ。もう帰らないと」
「追い出すのか?」
佐久間は探るような目をした。
「まさか、次の客を取るんじゃないだろうな?」
実井はむっとしたようだ。
「冗談でしょう?貴方がしつこいから、僕はもうくたくたなんですよ。ひとりでぐっすり眠りたいんです」

確かに、夕べは久しぶりだったこともあって、随分と羽目を外してしまった気がする。だが、それはあくまで実井の誘導であって、佐久間のせいではなかったのだが。
「別に寝かせてやるから、追い出すことはないだろう」
「本当ですか?」
実井の疑るような声。
だが、佐久間とて疲れきっており、とてももう勝負にはでられそうもなかった。
「ほら。おいで」
佐久間の腕に、実井は素直に従い、佐久間の胸に抱かれた。
鼓動が伝わる。気のせいか少し早い。

「寝物語に聞かせてくれ。どうして将校たちを殺したんだ?」
「・・・貴方もしつこいですね・・・」
囁くように、実井はこたえた。
「僕がやったという証拠でもあるんですか」
実井を抱く手に力を込めて、佐久間は、
「貴様からは血の匂いがする・・・そして、あのチャイナドレス・・・」

耳元でそっと囁いた。







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