「日本の煙草は銘柄が少ないんだ。それは、福本さんの煙草だよ」
僕が言った。
「福本の?」
「そうだよ。早合点だ」
佐久間さんのことは言いたくなかった。
「じゃあ、佐久間じゃないんだな」
「・・・・・・違う。これ、ほどけよ」
「嫌だ」
後ろでに縛られている。波多野は後ろから、
「俺だって、なにもしてなかったわけじゃない。貴様を満足させてやる」
首筋に息を吹きかけた。背筋がぞくりとする。
「いい子にしてろよ・・・」
波多野の指が、下腹部をなぞった。
「・・・くすぐったいよ」
「しゃべるなよ。気が散る」
少し怒ったような波多野の声。
「少し、痛いかもな」


終わったあと、僕は痺れたように動けなかった。
「どこで・・・覚えたんだ」
「貴様こそ・・・」
お互い、セックスのやり方がすっかり変わってしまっている。
僕ばかり攻め立てる波多野に、腹が立った。
「自分だって・・・」
「俺は修行しただけだ。貴様とは違う」
「歩けないくらいなくせに、よくも・・・」
「腰から上があれば、抱くことくらいは出来る」

波多野になにがあったのか。どす黒い感情が湧いてくる。
それを、必死に押し殺した。
「なんて顔してんだよ。実井」
「別に普通だろ」
「真っ青じゃないか」
「いい加減、ほどけよ。腕が痛い」
波多野は無言で縄を解いた。
僕がほっとしていると、波多野が僕の前髪をかきあげた。

「良かったか?実井」
至極真面目な顔つきで、波多野はそう尋ねた。








inserted by FC2 system