「波多野のせいで、散々なんだだけど」
「てめー、こっちは命がけで飛んで来たんだぞ!ねぎらいの言葉はないのか!」

波多野と言い争っていると、
「まずいことになった。当局が、行方不明のパイロットを探し回っている」
福本がそう報告した。
「そりゃそうだろうな。悪かったよ」
波多野が肩をすくめた。反省の色はない。

「俺の事業にも影響が出そうだ。当局の奴らが嗅ぎまわっていて、しばらく積荷は動かせないな」
「しばらく?」
僕が聞き返すと、
「ああ・・・この辺りが潮時かもしれん」
福本も肩をすくめた。

そんな。
福本は闇の食料の横流しをして得た富で、革命を起こそうとしている。
資金が流れなければ、革命は失敗する。関東軍は苦境に立たされる。
それは、日本の負けを早めることになる・・・。

波多野は全身を打撲していて、自分では歩けない。
福本のベッドも占領していた。
福本は、ふらりとどこかへ出て行った。
「おい、続きをやろうぜ」
波多野が囁く。僕は赤くなった。
「なにいってんだ!怪我人のくせに、大人しく・・・」
「福本も気を利かせてくれたんじゃないかな。俺のために」
「波多野・・・」
D機関の人間とは思えない単細胞だ。佐久間さんといい勝負だ。

波多野は僕の腕を掴むと、強引にベッドに引っ張り込んだ。
「苦しいよ、波多野」
「いいだろ?会いたかったんだ・・・会いたくて・・・気が狂いそうだった・・・」
そうしてしばらく抱きしめていたが、
「それで、貴様には聞きたいことがある」
「なに?」
「浮気をしたらしいじゃないか?どこで?誰と?いつ?・・・白状してもらおうか」
波多野は、ほとんど羽交い絞めのようにして、僕の身体を抱いた。
福本め・・・。
僕は福本のお節介を恨み、小さくと息した。








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