「・・・もう、俺が邪魔になったんですか?」
「日本に帰りたいんじゃないのか」
「それは・・・そうですけど・・・」
僕が銜えた煙草をとりあげて、福本はそれを吸った。
2、3度吸い、また僕の口に戻した。
「なら、つべこべいうな。明日の船に乗れ」
「貴方はどうするんです」
「俺はまだやることがある」
野暮なことを聞いた。
小田切のいる大陸を、福本が離れる筈はない。
待つつもりなのだろう。

「なら、僕もここにいます」
「貴様を日本に返すと、佐久間と約束をした。俺は古い男だ。約束は護る」
「格好をつけないでください。本当は僕が邪魔なんでしょう」
「そうだな。正直、貴様のことは嫌いだ。昔からだ」
情を交わしたばかりだというのに、福本はそういって、ふっと笑った。
「貴様はD機関のためにならない」


港で船を眺めていた。
どうせ明日帰国するのだ。真面目に仕事をすることもないだろう。
福本は食料の横流しで財を成し、中国に内乱を画策している。
だが、中国が崩壊したところで、まだ相手はアメリカ、イギリス、オランダ・・・オーストラリア・・・。ロシア。いつかは負けるときがくるのだろう。
港は平和そのもので、戦争などどこか遠い国の出来事に思えてくる。
だが、佐久間大尉も、小田切も、確かに大陸で戦っているのだ。
祖国を護るために・・・。

日本に帰国しても、そこには結城さんさえいない。
まして、結城さん以外に、僕を待つものはいないのだ。
僕はもう、居場所さえ失ってしまっている。

胸から出した煙草の箱を眺めた。佐久間さんはこれを置いていった。形見みたいに。
忘れていったのか、わざとなのかはわからない。

僕は日本に帰国し、佐久間の帰りを待つべきなのか・・・たったあれだけの仮初めの夜のために。
佐久間さんだって、本当に待っていて欲しいのは、きっと僕じゃないだろう。







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