「いいんですよ。僕は」
僕は囁いた。
「小田切さんの、代わりでも」

小田切、と言う言葉に反応して、福本は僕を睨んだ。
「小田切の・・・代わり・・・だと?」
福本は僕の身体を突き放し、
「そして貴様は、俺を波多野の代わりにするっていうのか?」

しばらく、福本は僕の顔を見つめていたが、やがて、低い声で、
「いいだろう」
と呟いた。
福本は、僕をソファから引き摺り下ろすようにして、床に押し倒した。
そうして、服を乱暴に剥ぎ取ると、首筋の辺りを舐めた。
冷たい舌が、僕の肌に触れると、僕の下半身を痺れるような快感が駆け抜けた。
「あ」
僕は福本の頭を抱きかかえ、声を放った。

自分の声とは思えないような淫らな喘ぎ声が、喉の奥から漏れる。
誰も聞いていないことを祈りながら、僕は福本に身体を開いた。
福本は、およそ普段の彼とは別人のようなサディスティックな技巧で僕を攻め立てた。

波多野は不器用だが、僕に触れるときはいつも優しかった。
あれがたぶん、愛・・・。
ぼんやりとそんなことを思いながら、僕は福本に抱かれた。


「おい」
頬を軽くはたかれて、僕は目覚めた。
「・・・そんなに好かったか?」
皮肉げな声。
僕は意識を手放していたのだろう。もう、明け方だ。
「煙草、ありますか」
福本は黙って煙草の箱を投げて寄越した。
箱から一本取り出した煙草を銜えると、福本がマッチを摺り、それに火をつけた。
一瞬、激しく炎が燃えあがった。
この煙草・・・佐久間さんのだ。
煙を吐いた時、それに気づいた。

「明日、帰国する船が港から出る。非公式の密輸船だ」
福本はマッチを吹き消して、灰皿に捨てた。
「貴様はそれに乗れ。ただし、命の保証はないと思え」
部屋は再び暗くなり、福本の表情までは見えなかった。









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