「なぜ、泣いている」

その声で、僕ははっと目を覚ました。
夢か・・・。波多野の夢を見ていた。抱きしめられて、そして・・・。

「哀しい夢を見たのか」
「違う」
福本は、僕の顔を覗き込んでいる。
そして、長い指で僕の涙を拭った。
小さな子をあやすみたいに。

「泣くな、貴様は男だろう」
ソファの前に膝まづき、福本は僕の涙を払うと、じっと僕の顔を見つめた。
「どうして・・・」
昨日はあんな目にあわせたくせに、今日は随分と優しい。
気まぐれに優しくするのは、むしろ残酷な仕打ちだ。
だが、思えば福本はいつも優しかった。
残酷だったのは、ゆうべだけだ・・・。

「どんな夢だ」
「波多野の・・・」
「波多野か」
福本の表情は変わらなかった。
「会いたいか?波多野に」

そう問われた途端、今まで抑えていた想いがどっとあふれ出た。
僕は自分を抱きしめるようにして、それをこらえようとしたが、うまくいかなかった。
「・・・・たい・・・」
「波多野はフランスだろう。迎えに来るとは思えんな」
「それでも・・・」
波多野との思い出が走馬灯のように甦る。
冬の海を泳いだり、無人島で喧嘩をしたり、爆発物を作ったり、一緒に映画を見た・・・。
だが、波多野はサヨナラも言わずに旅立っていった。
きっと、戻るつもりはないのだろう。
二度と会えない。
そう思うと、胸の奥がきりきりと痛んだ。

「俺も・・・会いたいよ」
福本は呟いた。そうして、僕を抱き寄せた。
僕達の会いたい人はここにはいない。どこにいるのか・・・それさえも不明だ。








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