福本の技巧は巧妙だった。
実際、場数を踏んでいる実井が驚いたほどだった。
福本は何度も実井を追い詰め、実井は声が枯れるほど喘いだ。
そうして、絶頂に達する寸前で、福本は追及をやめた。
途中でかわされた快楽は行き場を失って、実井を悶えさせた。
目に涙さえ浮かべて懇願する実井を、福本は覚めた眼で見ていた。

「勘違いするな。俺は貴様の毒牙にはかからん」

そう言い放って、福本は部屋を出て行った。
そのまま実井はベッドに取り残された。逝きたくて、気が狂いそうだった。
実井は仕方なく、自らの手を汚して、続きを行った。
快楽の波は、じわじわと彼の内側を浸して、やがて心を攫っていった・・・。

こんな屈辱は初めてだ。

目を覚ましたとき、実井は空虚だった。
こんなにも空虚なのは、波多野と別れて以来だ・・・。
実井はじっとみずからの濡れた掌を眺めて、吐息した。

倉庫に行くと、ヤンが待っていた。
「おはようございます。手伝います」
「福本さんは?」
「用事で、でかけました」
それを聞いてほっとする。少なくとも今日一日、顔を合わせたくない。
「実井さん、今日は、貴方、色っぽいです」
「・・・え?」
「なにかいいことがありましたか」
シナ人というのは遠慮がない。思ったことを言う。
「いいことはなにもないよ、寧ろ」
言いかけて、
「いや、なんでもない」
実井は帳簿を開いて、その中に顔を埋めた。

実際、寝てみるまでオトコと言うのはわからないものだ。
朴念仁だと思っていた福本に、あんな技巧があったとは・・・。
もし、最後までいっていたら、自分は堕ちていたかもわからない。

「ミイラ取りが、木乃伊になるって・・・いいますしね」
実井は嘯いた。







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