朝起きると、福本の姿はなく、机の上に肉饅頭の入った袋が置いてあった。
触ってみると、まだ温かい。
実井は黙ってそれを食べた。

倉庫にいってみると、福本たちがなにやらもめていた。
どうやら賃金のことで、ひと悶着あったようだ。
実井の姿を認めて、福本は眼で来るなと合図した。
実井は姿を隠した。

シナ人は日本人とは違う。言うことをきかせるのは至難の業だ。
福本は良くやっていると思う。

正午を過ぎた頃、福本がやってきた。
「実井、こっちに来てくれ」
連れて行かれた倉庫の片隅には、帳簿が散乱していた。
「一応貿易会社を装っているからな。帳簿が必要なんだ。今日からはこっちを手伝って欲しい」
「いいですけど・・・」
こっちは骨が折れそうだ。ざっとみただけで、相当な量だ。
「帳簿係がさっきやめたから、ひとりだ。好きにやってくれ」
「福本さんは?」
「俺は用事がある。3時には戻る」
福本はすっかり実業家の顔だ。
実井は複雑な顔でそれを見送った。

骨の折れる帳簿の計算に没頭していると、ヤンがやってきた。
「どうですか?わかりますか?」
「まあね・・・なんとか」
「わからないことは、僕に聞いてください」
「ヤン。福本さんは、金をもうけて、一体なにをするつもりなんです?」
「あー・・・それを聞きますか」
ヤンはずるそうな笑みを浮かべた。
「それは申し訳ないですけど、福本さんに聞いてください。僕、知りません」
「そうだよね」
実井は吐息して、首を回した。
だが、福本が闇物資で巨額の富を得ているのは確かだ。意外な才能である。
金には執着しない性格だと思っていただけに、意外だが、なにか思惑があるのだろう。
「福本さん、戦争を終わらせたいんですよ」
ヤンが、ぽつりと言った。






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