実井が粥を平らげる様子を見ていた福本は、
「・・・餓死寸前、というのは本当だったらしいな」
とぼやいた。
実井はきっとなって、
「長旅で腹が減っていただけですよ。失礼な」
と言い返したが、再び粥のさらに顔を埋めた。
「まあいい。喰った分は働いて貰う。丁度人手も足りてなかったしな」
「働く?」
実井は顔をあげた。頬にご飯粒がついている。
福本はそれを指で攫った。
「お前には似合いの仕事がある・・・」

連れて行かれたのは、港の倉庫だった。
赤銅色の肌をしたシナ人たちが、重そうな荷物を運んでいる。
「・・・なるほど。闇物資ですか」
実井が呟いた。
「そうだ。ここにある米、麦、コーンスターチ・・・本物の酒に至るまで、全部闇物資だ。日本に送れば高値で売れる。実際、笑いがとまらないほど儲かる」
「一攫千金できるのは亡国のときですからね。祖国を裏切って、金儲けですか?」
「俺は貴様と違って身体を売るわけにはいかないからな」
福本が皮肉を言うと、
「僕に似合いの仕事って?まさか、これを運ぶんですか?」
「肉体労働は好きだろう?実際、貴様の筋肉を見ても娼婦だと勘違いするばか者どものことなんかどうでもいい。積荷を船に積み込むんだ」
「やれやれ。高い飯代だな」
実井は、だが、口ほどには嫌そうな顔をしなかった。
華奢な外見のわりに、力仕事には自信があるのだろう。
「今日一日だけだ。明日には追加のシナ人たちが来る」
福本はにやりとした。


「やれやれ。やっと終わった」
右肩をたたきながら、実井は顔を上げた。
もうすっかり暗くなり、港は明るい街灯が揺れていた。
「ご苦労さん。あっちで休憩してろ」
福本がねぎらった。側に、若いシナ人の青年が立っている。
歩き出した実井には、二人の会話が聞こえた。
「あの人、福本さんの彼女ですか?随分綺麗な顔をしている・・・」
「女に積荷が運べるか。あれは男だ」
「ええ、男・・・?随分綺麗な男ですねぇ・・・」
青年の邪気のない感想に、福本は苦笑したようだった。









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