「あぁ、いたのか」
「田崎・・・。甘利を探しているのかい?」
「いや?暇だから来ただけだよ」

談話室で一人本棚の本を眺めている小田切に声をかけると、不思議そうに返事をされた。
そんなにいつも甘利といるかな?
田崎は苦笑した。

小田切が本棚に向かったまま動かないから、
「何の本を探しているの?」
田崎が小田切に近寄って顔を見ると、小田切の目は本を見ていなかった。
何か考え込んでいる。
「何か、悩み事?」
ピクッと反応する小田切。
彼は、わかりやすい。
そういえば、こないだから少しおかしい。福本と何かあったのかな・・・。
「おだぎ・・・」
「ちょっと、聞いてくれるか?」
小田切の困ったような顔が、少し可愛いと思った。

「・・・それで?どうしたの?」

自室に移動すると、ベッドを椅子代わりに座る小田切にお茶を出した。
礼を言って受け取るながらも俯いたまま。
しばらく待っていると、ようやく口を開いた。
「前に、バーで話していたことなんだが・・・、なんというか、・・・出来なかったんだ」
「バーで・・・?あぁ、そうか、あの話か・・・」
以前小田切が酔っ払って話していたあの話、結構覚えていたんだな。
まぁ、D機関の人間が、ちょっと飲みすぎたくらいで記憶をなくしたり判断力をなくしたりするはずもない・・・。
あれは、戯れでもなんでもなかったわけだ。
それで、福本は、小田切に抵抗したということかな。

「福本は、嫌だって言ったの?」
福本に少し同情しながら聞いた。
「いや、嫌だとは言ってない。でも、俺は気持ちよくしてやれなかった。俺の勉強不足だよ」
「ふふ、あそこにはそんな本、置いてないだろう?」
「いや、そういう訳じゃない。少し、・・・多分、ショックで、気を紛らわせたかっただけだ」
そう、俯いて話す小田切の話し方は優しい本質を投影してはいる。
しかしその考え方は、征服欲に満ちた男の考え方だ。
・・・身体は、そうじゃなさそうだけど。

小田切はD機関員の中では異色だ。それが、良いのか悪いのかはまだわからない。
だが、きっと誰よりも葛藤している。
人生に開き直り、いつでも火の中に身を投じるようなことのできる俺たちには、このちょっとしたことでも真剣に悩む小田切は、貴重な存在だ。

「ねぇ、小田切、他の方法を試してみたら?協力するよ」
小田切には、幸せになってもらわないと困るんだ。























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