「誰だ!」
銃口が向けられた。長い、狩猟用の銃だ。
「近所の者です。このリンゴを皆さんに差し入れです」
リンゴを入れた籠を差し出して、帽子で顔を隠すようにして僕は見張りに近づいた。
「リンゴだと?気が利くな。喉が渇いて仕方がなかった」
男はうまそうにリンゴを頬張ると、黙って飲み下した。
「納屋の中にも人が?差し入れたもいいですか?」
僕が言うと、
「やめておけ。ヴォルフ少佐がお楽しみの最中だ」
「お楽しみってなんですか?」
「知れたことだ。手錠で繋いだ狐を可愛がっているのさ。ヴォルフ少佐は男と二人きりになるために、側近の俺まで外に出した。今頃はきっと・・・」
男は下卑た笑いを浮かべて、リンゴの芯を投げ捨てた。
「よぉ、坊主、もっとくれや」
男はリンゴを頬張ると、
「お前はドイツ人じゃないな?どこから来た」
「僕はロマの子供です。もうずっと近所に住んでいます」
「ふん、嘘付け。流れ者だろう?よく顔を見せろ」
男が僕の襟首を掴んだ。
帽子が落ちた。僕の顔を見て、男は一瞬呆けたようになった。
「随分綺麗な顔をしているんだな・・・この辺には女だってお前みたいなのはいない」
「血が混じっているから、顔立ちが濃いんです」
「リンゴはもういいから、あとで俺といいことしないか?」
男は耳元で囁いた。
「あとでといわず、今しませんか?あの納屋の影で」
「いいのか?」
男は半信半疑ながら、僕に手を引かれて、納屋の側まで来た。
「貴方の好きにしてください」
男は、ベルトを外すと、ズボンを下ろした。中のものは既にはちきれそうにそそり立っている。
「口でやってくれ・・・」
「焦らないでください。時間ならある」
「焦らすなよ・・・早く」
そろそろ薬が利く頃だ。ふいに、男はのけぞるようにして仰向けに倒れ、口から泡を吹いた。
僕はそれを確かめると、男の顔に唾を吐き捨てた。
狩猟用の銃を取り上げて、僕は納屋の窓から中をうかがった。
いた。
左手をつながれ、不自然な格好をさせられた裸の佐伯が、ヴォルフ少佐と思しき金髪の男に、キスされているところだった。
佐伯さん!
僕は心の中で叫んだ。