「どこですか?」
ヘルムートはマイセンの人形を飾り棚に戻し、扉に鍵をかけた。
居場所を報告した男は音もなく姿を消した。
「・・・教える前に、君が提供するといっていた、貴重な報酬を頂こうか」
「でも時間が」
「時間?明日の朝まで待てと言ったはずだ。時間ならたっぷりとある」
確かに、この取引を持ちかけたのは自分だ。
情報を得る以上、対価は払う必要があった。
事が成ってから、僕が戻ってくるとは、ヘルムートにも思えないのだろう。
「服を脱げ。検分してやる」
僕は言われるまま服を脱いだ。
「なるほど。意外に筋肉がついているな」
だが、綺麗だ。ヘルムートは口笛を吹いた。
「床に這いつくばれ。そうして、俺のブーツを舐めろ」
なんだと?
僕が非難するようにヘルムートを見ると、
「君は俺に身体を自由にするように言ったはずだ。手始めに、俺のブーツを綺麗にしてもらう」
ヘルムートはニヤリと笑った。
くそ・・・僕を怒らせて、反応を見てる。
「どうした?できないのか?サエキを愛しているんだろう?」
僕はヘルムートの顔に肘鉄を食らわせると、倒れこんだ彼に馬乗りになり、喉元に短剣を突きつけた。短剣は、飾り棚にあったものを拝借したのだ。
味方にしておきたかったが、仕方ない。
「ストップ。冗談だよ!そんなに怖い顔をするな」
ヘルムートはぬけぬけと言う。
「今度冗談を言う時は、人を選んだほうがいいですよ」
僕は言った。本気であることを匂わせるために、短剣の先で、少し皮膚を切った。
「わかったわかった。教えるから・・・そこをどいてくれ」
「今すぐ教えてください。佐伯さんはどこにいるんですか?」
「驚くなよ。近くの農家の納屋だ。そこに東洋人の男が連れ込まれるのを、近所の人が目撃したそうだ。それがおそらくサエキだろう」
東洋人の男。
情報としては不確かだが、それに賭けるしかなかった。