「・・・今の僕は、自分しかありません。僕は、僕の身体で、貴方に報酬を支払います」

僕の言葉に、ヘルムートは一瞬目を丸くして、次の瞬間、爆笑した。
「なんだって?自分自身を報酬にするっていうのかい?子供の癖に」
目尻にたまった泪を払いながら、芝居がかった仕草で、ヘルムートは僕の申し出を笑い続けた。
いい感触だ、と僕は思った。相手は感情をさらけ出している。気を許した証拠だ。

「貴方の言うとおり、僕は17歳です。こっちじゃあ、もうとっくにオトナでしょう?」
欧米人の成人はだいたい16が決まりだ。16になれば、結婚を意識する年になる。

「君は、自分の言葉の意味がわかっているのか?」
笑いを頬に貼り付けたまま、ヘルムートは可笑しそうに尋ねた。
「君は佐伯の居場所と引き換えに、俺と寝るといっているんだぞ?」
「・・・・はい。その覚悟です」

「・・・君は本気であの男を想っているんだね。それだけは伝わったよ」
ヘルムートは僕の頭に手を置いた。

「よろしい。居場所を探してやろう。ただし、それだけだ。火の粉が降りかかってきては困るからね・・・僕の勘じゃ、佐伯はほっといてもひとりで戻ってくると思うけど」

「ありがとう」
「まだ礼を言うのは早い。少し時間をくれ。少なくとも一日はかかる」
「半日で頼みます」
「駄目だ。明日の朝まで待て」
ヘルムートは元の、冷酷そうな顔に戻った。
「わかりました」

「不思議だ。君は組織の匂いがする・・・さっきまでは物分りの悪い駄々っ子のようだったのに」
「貴方も不思議です。貴方は、佐伯さんに似ている」
「それは理想が同じだからだろう。長い付き合いだしね」
ヘルムートは長い金髪をほどいた。

「だが、長い付き合いだが、あんなに乱れたサエキははじめて見た。何かから逃れようと必死だったんだ。そのなにかがわかったよ。君だったんだね」

「君がサエキを変えてしまった」




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